msha_on’s blog

映画を観た感想を中心に日常の気づきを呟いていくドラえもん好きです。

のび太の宝島:日常にロマンを付加すること

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川村元気さん半端じゃない実力持ってらっしゃる.

オープニングもなしにグイグイ物語が進んでいく.

すごい密度なのは一つ一つの台詞&演出からも感じ取れて,キャラクターが驚くほどに生き生きと描かれていた.

ただその半面台詞や演出にスキのない想いが込められすぎていてドラ映画では初めて「ドラえもん達がドラえもん達を演じている」感覚になった.

たしかにこれはドラえもん映画なんだけど,ドラえもん達は確実にツールとして使われてきている.

これはカチコチ同様,僕の望む方向性で有り難い.

 

全体的に人物描写が美しい分,舞台となる方舟の舞台背景の説明はやや不足気味なところもある(これはふしぎ風使いみたいな感じ).

でもそんなことどうでも良いと思えるくらいに素晴らしいメッセージと演出が見られた傑作だと思う.

 

以下ネタバレ含みます.

 

 

 

この映画のスタンスとしてすごいのが,「こんなこといいな,できたらいいな」ではなく,たしかな理論の基にドラえもんの実現可能性を製作者がビジョンを示したことだ.

これはエンターテインメントであり,ARを通して日常はいつだってドラえもんワールドになる.

でもこのAR感は途中でドラえもんが帽子を海に落とすことで現実で確かなものとなって観者もリアルに感じる.

映画なのにね.

これも含めてエンターテインメント.

とにかく「僕らが目指すドラえもんは家電ではなくエンターテイナーとしてのドラえもん」という思想が伝わってくる.

つまり,ドラえもんの役割は「夢を叶えること」だけでなく,「日常にロマンを付加すること」も含まれているのだ.

この洞察は確かだし,たしかにこれなら2112年に実現できそうって思う.

 


もう一つは男女の境界,子どもと大人の境界なんかの問題.

こうしたものはボーダレスにしようとというのが現代の流れだけど,男性の属性や女性の属性ってやっぱりあるし完全なボーダレスは無理だよねっていうジレンマというか問題提起が為されてる.

実際にこの映画は「男らしさってなんだよ」って台詞が何度もある割にしずかと他の男の子たちが大半別行動をしていて,しずかはセーラと出会って女性らしい生活を送る.

でこれがすごい皮肉で,のび太達といるよりも生き生きしてるんじゃないかって思っちゃうのね.

そうすると俺が生まれてから今まで見てきたしずかちゃんは,もしかしたらもっと自分を解放できる居場所が他にあったんじゃないかって思っちゃうわけ.

僕らはしずかちゃんの何も知らなかったんじゃないかって.

男女の仲良しグループってたしかに秩序を保つための工夫が男女双方に必要だからね.

それを言うと男性側も同様で,やはりしずかちゃんがいないからこその空気感があった.

 

演出的にはしずかちゃん以外の他のキャラクターも含めて女性の魅せ方が上手くて,今までのドラ映画で一番女性が輝いてる映画かもしれないとまで思った.

しずかちゃんあり得ん可愛かった.

ただこれに負けず劣らず男性陣も魅力的で,のび太の協調性,ジャイアンの大胆さ,スネ夫のテクニカルさ,しっかり住み分け良くかっこよく描かれてた.

スネ夫のサブマリンはドラ映画名シーンとして残したい.

ドラえもんの上唇が薄いのは大山世代からしても嬉しいよね.

 

あとは「トビウオ!」って叫ぶと同時に海を冒険する映画が空まで舞台が広がって,のび太としずかがドラえもんを抱えたままの空中落下まで見られたのはすごかった.

その前ののび太が脚ガクブルさせるの自分がシンクロさせられたね.

ドラえもんを助けにエネルギーボールに入るのはエヴァのオマージュかな.

他にも5人だけじゃ手に負えないところをミニドラが見事にカバーするし,最後の後味の良さまで見事なまとまりだった.

 


そしてこの映画のテーマは「分からないこと」.

地球のエネルギーを膨大に搾取したらどうなるか「分からない」けど,親子の絆が崩れてる状態で無謀な行動に出るのは危ないと駆け寄るのび太

父親目線で言えば『今まで仕事ばっかりだったけどこれからは子どものことも面倒見てあげないとね』くらいの理由で話は収束するけど未来の地球が滅びてしまうかもしれないことへの解決案は何も「分からない」.

家族の時間を大事にするのが正解なのか,どうにかこうにか未来を救うのが正解なのか,「分からない」のだ.

のび太達はいつか地球が滅びてしまうなんて事実に耳も貸さない.

これはあくまで1つの立場で,シルバーが人類に警笛を鳴らすことも決して間違っていないはず.

この映画自体ジレンマの連続で,問題提起は数知れず,僕が拾えてないこともあるんだと思う.

 

 

制作陣の実力でドラえもんを見事に演じさせた映画だったね.

ただこのレベルを毎年やられると精神が持たないよ.